第11回憲法学特殊講義4.むすびに代えて多種多様化する人権侵害の事案に対応するための立法あるいはそれに類した措置は必要であり、実施されねばならないのは事実である。 しかし、今回の法案を検討してみると、あまりに多くの問題点があり、「人権擁護」とは程遠い内容であったのである。この法案は、「人権擁護」の名の下に市民の表現の自由やマスメディアの報道の自由に国家権力が規制を加え、監視、監督を日常的に行う恐るべき法案である。仮に、一部圧力団体からの圧力を受けた自民党と、この法案に好意的な創価学会=公明党が数にモノをいわせる手法で人権擁護法案を通過させた場合、北朝鮮や中華人民共和国といった共産独裁国家のような事態、すなわち事実が報道されず、国民は口をつぐみ、ただただおとなしくしているだけという時代がやってくるのは間違いない。 この法案が国会に提出され、最初に問題になったときはマスメディアも一定の反発を示した。しかし修正案としてマスコミ規制条項の凍結が発表されると、マスメディアは一様に押し黙り、反対の声を上げ続けるのはごく一部の政治家や評論家、そして政治に関心を持つ一部保守系ブロガーのみとなってしまった。 つまり、いまの日本のマスメディアも、大多数の政治家も、その程度でしかなかったのである。日本国憲法の公布から今年で60年になるが、いまだに誰も表現の自由の意義を知らず、また民主主義というものを使いこなす術を知らないのではなかろうか。 だからこそ、マスメディアは目先のマスコミ規制条項の凍結(削除ではないのだ)に押し黙り、政治家は「反差別」を隠れ蓑に利権をむさぼるような圧力団体からの要求に応じ、このような法案を通そうとするのだろう。 今でも、この人権擁護法を成立させようとする人々がいるのは事実であり、いつ再提出されるかわからない状況が続いている。 「人権擁護」の美名の下に新たな人権侵害を発生させるこのような法案の成立を阻止し、特定勢力からの圧力を受けない自由闊達な議論をおこなって、真の「人権擁護」に資する法を定めるよう、国民一人一人が自覚すべき時期が来ていると思う。 5.参考資料 ・『誰のための人権か』 (田島泰彦・梓澤和幸編著)日本評論社 ・『あぶない!「人権擁護法案」―「人権」濫用で脅かされる自由社会』 (日本会議・編)明成社 ・『緊急出版 人権擁護法案・抜本修正への提案―どこを、どう、変える?』 (部落解放人権研究所・編)部落解放人権政策確立要求中央実行委員会 ・法務省HP ‐人権擁護法案 http://www.moj.go.jp/HOUAN/JINKENYOUGO/refer02.html ‐人権擁護局HP http://www.moj.go.jp/JINKEN/index.html ‐パブリックコメント「人権救済制度の在り方に関する中間とりまとめ」 http://www.moj.go.jp/PUBLIC/JINKEN04/settlemen00.html ・部落解放同盟中央本部HP http://www.bll.gr.jp/ ・全国地域人権運動総連合HP http://homepage3.nifty.com/zjr/ ・部落解放同盟全国連合会HP http://www.zenkokuren.org/ ※その他脚注において示したページなども参考資料である。 *1)「サンデープロジェクト」(EX系)2005年9月18日放送分 *2)同和問題とは,日本社会の歴史的発展の過程で形づくられた身分階層構造に基づく差別により,日本国民の一部の人々が長い間,経済的,社会的,文化的に低位の状態を強いられ,今なお結婚を妨げられたり,就職で不公平に扱われたり,日常生活の上でいろいろな差別を受けるなどの我が国固有の重大な人権問題です(法務省・えせ同和行為を排除するためにhttp://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken86.htmlより) *3)野中氏は自伝において自身が部落出身であることを明かしている。一方前原氏は、党代表就任までは公式HPでも部落解放同盟で役職に就いていたことを公表していたが、なぜか就任直後に削除してしまった。 *4)だからこそ同じく部落解放を目指す団体が同法案に猛反発しているのである。 全国地域人権運動総連合(共産党系。旧・全国部落解放運動連合会) 人権擁護法案関連ページhttp://homepage3.nifty.com/zjr/2005yougo.htm、及び 部落解放同盟全国連合会(中核派系) 全国大会2005年3月分の記事2ページhttp://www.zenkokuren.org/taikai/past/taikai0503_2.htmlより *5)法務省HP人権擁護法案に関するQ&Ahttp://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken83.html#01より *6)パリ原則(「人権救済制度の在り方に関する中間とりまとめ」内) http://www.moj.go.jp/PUBLIC/JINKEN04/refer05.htmlより *7)「委員たるに適しない非行」の内容が明確にされていない。加えて、何を非行とするかは人権委員会自身が恣意的に決定できるのである。 *8)だからこそこれまで政府は人権擁護機関の創設に消極的だったはずである。 *9)例えばマスメディアによる過剰な報道あるいは外国人差別、もしくは「部落問題」であろうか(この法案制定に部落解放同盟が大きく関わっていることから考えて)。 *10)市民からすれば、ある日突然人権委員会の指示を受けた人権擁護委員が「調査」を称して訪れるのである。表現行為のたびにこれは調査の対象になるのだろうかと考え、結果的に自粛などの萎縮効果を生むことは想像がつく。 *11)犯罪被害者、犯罪行為を行った少年、それらの者の配偶者、直系又は同居の親族がその対象となる。 *12)まるで戦前の特別高等警察による捜査を彷彿とさせる場面である。これが人をして「現代の治安維持法」と言わしめる原因であろう。 *13)川崎民商事件(最判S47.11.22)では、主として刑事手続に適用される憲法35条1項の令状主義は、それ以外の行政手続にも一定の基準(検査の目的、公益性、強制の程度、刑事責任追求とその結合性)により適用されるとしている。 *14)人権擁護推進審議会答申では、差別、虐待、公権力による人権侵害、マスメディアによる人権侵害の四つの類型を挙げ、これを積極的救済が必要な人権侵害の類型とした。 *15)この観点から見ると、細かい検討が加えられるべき報道に関する問題を公務員による虐待と同列に特別救済の対象とするのはまったく不当である。 *16)かつて報道の自由を奪った大日本帝国が歩んだ道を想起されたい。 *17)例えば同じ表現であっても、レポートとして書くなら可ではあるが一般の文章として書けば「差別」「レッテル貼り」とする人がいるように。 *18)新聞・雑誌記者、報道レポーター、新聞テレビ等の取材班、広くはフリーライターも含むであろう。 *19)日本各地の被差別部落の所在についてその住所などを網羅した図書。就職や結婚の際に相手の本籍地あるいは住所をこれを用いて調べ、差別する事案があった。総鑑はすべて回収されたとなっているが、真相は定かではない。 *20)客体があいまいであるのにどのようにその者の「人権」を「侵害」できるのであろうか。 *21)例えば放送業界においては数年前まで「よつ」の付く言葉(「ヨツ」は「常識の欠如した者」として「えった」「非人」を意味する関西地方での隠語)は使えなかった(ネズミの一種である「ヨツユビトビネズミ」でさえも)し、筑紫哲也氏の「屠殺場」発言に対する屠場組合や食肉市場関係者のつるし上げはあまりに有名である。 以上 憲法学特殊講義TOPに戻る ジャンル別一覧
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